
みなさんこんにちは!
ブログ担当技師です。
このブログでは、MRI(磁気共鳴画像)にまつわるちょっとした豆知識や、画像に映し出される不思議な現象を、できるだけやさしくお届けしていきます。
前回はMRIの「DWIのコントラスト」がどんなものか、どうやってコントロールし、臨床の現場でどう役立てているのかを解説しました。
さて、今回は「コントラスト 第3.1弾」と題して、
DWI(Diffusion Weighted Imaging):拡散強調画像を、もう一歩踏み込んでお話ししていきます。
今回はとくに、DWIの“相棒”として拡散を定量する
ADC mapと、
DWI高信号の“落とし穴”
T2 shine-through
の2つにテーマを絞り、一般の方には少し難しい話になりますが、読み解き方を解説していきます。
■ADC mapとは ~DWIの“相棒”、拡散を定量する地図~
DWIは拡散に加えてT2の影響も受ける“混ざった”画像です。
ADC mapはT2の影響を除き、水分子の動きやすさ(拡散係数)だけを映す定量マップです。
見え方の比較(真の拡散制限)
拡散制限ではDWIで高信号(白く)、
ADCでは低信号(黒く)沈みます。
DWIとADCで明暗が反転するのが読影の要です。
■なぜADC mapが必要か
・DWIはT2の影響を含む
長いTEによりT2の寄与が信号に残り、T2 shine-throughが混入します。
・定性から定量へ
明暗の印象ではなく、拡散係数(mm²/s)で評価できます。
・白黒が反転する
拡散制限では、DWI高信号(白)に対してADCは低信号(黒)になります。
・誤読を防ぐ
DWIとADCの併読が読影の大原則です。
■ADC mapの読み方の基本
・暗い=拡散制限
細胞性浮腫・膿瘍・高細胞密度腫瘍などでみられます。
・明るい=自由拡散
血管原性浮腫・嚢胞などでみられます(類上皮腫は別)。
DWI高信号 + ADC低信号 = 真の拡散制限
代表は急性期脳梗塞で、膿瘍・高細胞密度腫瘍でも同様です。
DWI高信号 + ADC低下なし = T2 shine-throughを疑う
■【技術編】ADC mapはこう作る ~2点のb値から拡散を計算~
ADCは、異なるb値で得た2点以上の信号強度の減衰から、画素ごとに算出した“みかけの拡散係数”です。
式は単純ですが、b値の選択とノイズが精度を左右します。
計算のしくみ(Stejskal-Tanner式)
・信号は指数関数で減衰
S = S0 × exp(−b × ADC)
動きやすい(自由拡散) → ADC値が高い(例:脳脊髄液)
動きにくい(制限拡散) → ADC値が低い(例:急性期脳梗塞、悪性腫瘍)
・2点のb値で傾きを算出
ADC = ln(S1/S2) ÷ (b2 − b1)
(S1はb1、S2はb2での信号)
・全画素で計算しマップ化
同じ計算を画素ごとに繰り返してADC mapを生成します。
・単位
×10−3 mm²/s(正常白質 約0.7~0.8)
■b値の選び方と精度
・b=0+b=1000が標準
頭部で広く使われる2点です。
・b値の幅を広げると安定
傾き推定が安定し、ADCの誤差が減ります。
・高b値はSNR低下に注意
ノイズフロアでADCを過小評価しやすくなります。
・多b値フィッティング
3点以上で高精度に。IVIM・非ガウス解析へつながります。
■【技術編】ADC値で読み解く ~定量とピットフォール~
ADC mapは明暗だけでなく、数値そのものが診断の手がかりになります。
ただし、時期による変化を知らないと、値を読み違えてしまいます。
定量でわかること
・細胞密度と逆相関
細胞が密なほど水が動けず、ADCは低下します。
・膿瘍と嚢胞の鑑別
膿瘍は粘稠でADC低下、単純嚢胞は高値を示します。
・治療効果の指標
有効例では細胞死によりADCが上昇していきます。
・ROIで数値評価
病変にROIを置き、実測値で客観的に比較できます。
■経時変化という落とし穴
・超急性~急性期はADC低下
梗塞発症直後から細胞性浮腫で著明に低下します。
・偽正常化に注意
発症約7~10日でADCが見かけ上正常化します。
・慢性期はADC上昇
組織融解と嚢胞化が進み、高値に転じます。
・時期推定の手がかり
ADCの推移(低下 → 偽正常化 → 高値)から、発症時期を大まかに推定します。
■【症例で見る】ADC map ~DWIとADCをセットで読む~
実際の読影では、DWIとADC mapを並べて拡散制限の有無を確認します。
読み方の要点:
DWI高信号域(〇印)を確認し、真の拡散制限ならADC mapは黒く沈み、T2 shine-throughならADCは明るいままです。
DWI:高信号を確認 = 急性期脳梗塞
ADC map:低信号
T2WI:軽度高信号 ⇒ 発症から少し時間が経過した急性期脳梗塞
■T2 shine-throughとは ~DWI高信号の落とし穴~
DWIの高信号=必ずしも拡散制限ではありません。
元のT2が極端に高い組織は、拡散が制限されていなくてもDWIで明るく写ります。
これがT2 shine-throughです。
見え方の比較(DWIとADC)
真の拡散制限ならADCは低下し暗くなります。
DWIで白くてもADCで暗くならなければ、T2 shine-throughを疑います。
■なぜ起こるのか(メカニズム)
・DWIの土台はT2強調
b=0はT2強調画像(EPI)で、T2成分が信号に残ります。
・長いTEで顕在化
TEが長いほどT2の寄与が大きく、目立ちやすくなります。
・高T2組織が原因
亜急性期梗塞・血管原性浮腫・一部の嚢胞などでみられます。
・拡散制限の有無とは無関係
信号上昇が「水分子の動きの制限」を意味するとは限りません。
■画像への影響と対策
・偽陽性のリスク
制限がないのに病変ありと誤読しやすくなります。
・ADC mapを必ず併読
真の制限はADC低下(暗)、shine-throughは正常~上昇(明)です。
・高b値・指数関数DWIが有効
T2の寄与を減らし、コントラストを純化できます。
・経時変化に注意
亜急性期梗塞のADC偽正常化・T2 washout期は紛らわしくなります。
■T2 shine-throughの見分け方 ~DWIとADCを併せて読む~
DWIの高信号だけでは拡散制限の有無は判定できません。
ADCの明暗を軸に、高b値や指数関数DWIも併せてT2 shine-throughを見破るのが基本です。
shine-throughはADCでも明るいままです。
真の制限ならADCは黒く沈むので、ここで見分けられます。
■併読の基本ステップ
・まずADCを確認
DWI高信号の場所がADCで暗いか、明るいかを確認します。
・暗ければ真の拡散制限
急性期梗塞など、拡散制限ありと判断します。
・明るければ
T2 shine-throughを強く疑います。
・部位と経過も加味
病歴・発症時期・分布を総合して判断します。
■さらに確実にする一手
・高b値(b=2000~3000)で背景抑制
T2寄与が減り、純化します。
・指数関数DWIを活用
b=0のT2成分の影響を大幅に打ち消せます。
・eADC(指数ADC)を併用
指数関数DWIと同じ原理のマップ表示です。
・T2WI原画像と対比
元のT2が高いかどうかを直接確かめます。
■【臨床編】T2 shine-throughを見誤らないために ~鑑別と実践~
実臨床では紛らわしい病態が多く、見誤ると診断を誤ります。
鑑別の勘所と、日常業務での実践的な対策を整理します。
紛らわしい病態
・亜急性期梗塞
ADC偽正常化とT2 washoutが重なり、紛らわしくなります。
・血管原性浮腫
腫瘍周囲などでDWI高信号を呈することがあります。
・嚢胞性病変
内容液のT2で明るく見えます(類上皮腫は真の制限)。
・T2 blackout(dark-through)との混同
短いT2で信号が抑えられる逆の現象です。
■鑑別のコツと対策
・まずADC mapを確認
ADC低下があれば真の拡散制限と判断します。
・高b値/computed DWIを併用
T2成分を抑え、拡散制限を強調できます。
・eADCで確認
T2の影響を除いた指標で裏付けます。
・経過と臨床像を合わせる
発症時期や症状と矛盾しないか確認します。
■【症例で見る】T2 shine-through ~“本物”と見比べる~
同じDWI高信号でも、ADC mapを見れば一目瞭然です。
2つの症例を並べて見比べてください。
① 真の拡散制限(乳がん DWI b=1000)
DWIは高信号、ADC mapは低信号を示します。
② T2 shine-through(乳腺嚢胞 DWI b=1000)
DWIは高信号ですが、ADC mapは高信号のままで、脂肪抑制T2WIでも高信号を示します。
①はADC mapが黒く低下、②は明るいまま。
同じDWI高信号でも、ADC mapが決め手になります。
■新大阪画像のMoRI診断クリニックのMRI情報ブログ
~これからも「一味違う」画像を~
「ここで撮った画像は、なんだか見やすいね」
「想像していたよりも楽に検査できたよ」
そう言っていただけることが、非常に嬉しい瞬間です。
これからもスタッフ一同、自己研鑽を続け、患者さんや医師にとって価値ある画像を提供できるよう努力してまいります。
MRIの可能性はまだまだ広がっています。
次回予告:
DWI High b値 と Computed DWI
を深掘りします。どうぞお楽しみに。
