
みなさんこんにちは!
ブログ担当技師です。
このブログでは、MRI(磁気共鳴画像)にまつわるちょっとした豆知識や、画像に映し出される不思議な現象を、できるだけやさしくお届けしていきます。
前回は、DWI(拡散強調画像)の“相棒”であるADC mapと、DWI高信号の落とし穴であるT2 shine-throughについて解説しました。
今回は「コントラスト 第3.2弾」として、
DWI High b値とComputed DWI
について、もう一歩踏み込んでお話ししていきます。
MRIの画像は、撮影条件を変えることで見え方が大きく変化します。
とくにDWIでは、b値を高くすることで背景の信号を抑え、拡散制限を示す病変を相対的に目立たせることができます。
ただし、実際に高いb値で撮影する方法と、計算によって高b値の画像を作る方法には、それぞれ特徴があります。
今回は実際のMRI画像を見比べながら、その違いを解説していきます。
■DWIのb値とは? ~水分子の動きを画像に反映する~
DWI(Diffusion Weighted Imaging:拡散強調画像)は、体内の水分子の動きやすさを反映するMRIの撮影方法です。
このとき、拡散による信号の減衰をどの程度強く反映させるかを決めるのが
b値です。
b値が低いと拡散による信号減衰は小さく、b値が高いほど水分子の動きによる信号減衰が強くなります。
・b値が低い場合
拡散の影響が比較的小さく、T2の影響も含んだ画像になります。
・b値が高い場合
水分子が動きやすい組織の信号がより低下し、拡散が制限されている部分が相対的に目立ちやすくなります。
一般的なDWIではb=1000 s/mm²などが用いられますが、検査する部位や目的に応じて、さらに高いb値を使用することがあります。
■High b値とは? ~背景を抑えて病変を見やすくする~
High b値とは、通常より高いb値を設定して撮影する方法です。
たとえば、
b=2000やb=3000
といった高いb値を使用します。
b値を高くすると、水分子が比較的自由に動く組織では信号が大きく減衰します。
その結果、背景の信号が抑えられ、
拡散制限を示す病変が相対的に目立ちやすくなります。
一方で、高いb値には注意点もあります。
・信号強度が低下する
b値を高くすると、病変を含めて画像全体の信号が低下します。
・SNRが低下する
信号雑音比(SNR)が低下し、画像がざらついて見えることがあります。
・病変の見え方が変わる
背景は抑制されますが、必ずしも高いb値ほど診断しやすくなるとは限りません。
そのため、病変の見やすさと画質のバランスを考えて撮影条件を選択することが重要です。
■T2 shine-throughとHigh b値の関係
前回のブログでは、
DWIで高信号だからといって、必ずしも真の拡散制限とは限らない
ことをお話ししました。
DWIにはT2の影響が残るため、T2が非常に高信号の組織では、拡散制限がなくてもDWIで明るく見えることがあります。
これがT2 shine-throughです。
b値を高くすると、拡散による信号減衰が強くなるため、T2 shine-throughによる高信号が目立ちにくくなる場合があります。
次の模式図をご覧ください。
b=1000では、真の拡散制限による高信号に加えて、T2の影響による高信号も含まれることがあります。
High b値では、自由拡散する組織の信号がより強く減衰し、T2 shine-throughによる高信号が目立ちにくくなる場合があります。
ただし、T2 shine-throughが完全に消えるわけではありません。
High b値で高信号が残っている場合も、ADC mapを確認することが重要です。
■実際の画像で比較 ~b=1000とHigh b=2000~
それでは、実際のMRI画像を見てみましょう。
今回は次の3種類の画像を比較します。
① b=1000(実撮影)
標準的なb値で実際に撮影した画像です。
② High b=2000(実撮影)
b=2000に設定して実際に撮影した画像です。
③ b=2000(Computed)
実際に撮影した画像とADC情報をもとに、計算によって作成した画像です。
左のb=1000では、背景にも比較的多くの信号が残っています。
中央のHigh b=2000(実撮影)では、背景信号が低下している一方で、画像全体の信号も弱くなっています。
右のb=2000(Computed)では、計算によって背景信号が抑えられた画像が得られています。
同じb=2000でも、実際に撮影した画像と計算で作った画像では、見え方が異なります。
これが今回の大きなポイントです。
■Computed DWIとは? ~撮影せずに高b値画像を作る~
Computed DWIとは、実際に撮影した複数のb値の画像からADCを計算し、任意のb値における信号を推定して作成する画像です。
たとえば、b=0とb=1000の画像からADCを求めることで、実際には撮影していないb=2000やb=3000の画像を計算で作ることができます。
つまり、
追加の高b値撮影を行わずに、高b値相当の画像を得られる
ことが特徴です。
ただし、Computed DWIは実際に高b値で撮影した画像そのものではありません。
計算に用いた画像やADC値の精度、計算モデルの影響を受けるため、実撮影のHigh b値画像と完全に同じになるわけではありません。
■Computed DWIの計算のしくみ
Computed DWIでは、b値による信号の減衰を利用して、撮影していないb値での信号を推定します。
基本となる関係式は、前回のADC mapの解説でも紹介したものです。
S(b) = S0 × exp(−b × ADC)
S0はb=0での信号強度、bはb値、ADCはみかけの拡散係数を表します。
水分子が動きやすくADCが高い組織では、b値を高くすると信号が急速に低下します。
反対に、拡散が制限されADCが低い組織では、信号の減衰が比較的緩やかになります。
その違いを利用して、高b値相当の画像を計算します。
次のグラフをご覧ください。
このグラフでは、病変のADCを0.7×10−3 mm²/s、正常組織のADCを2.0×10−3 mm²/sと仮定しています。
b=0では両者の信号強度を100としています。
b=1000では、病変の信号は約49.7、正常組織は約13.5となります。
さらにb=3000まで計算すると、病変は約12.2、正常組織は約0.2となります。
このように、b値が高くなるほど両者の信号が減衰しますが、ADCの高い組織の方がより速く減衰します。
グラフの実線は病変、破線は正常組織を示しています。
実際に撮影したb=0とb=1000の信号からADCを求め、その信号減衰曲線を延長することで、撮影していないb=3000の信号を推定できます。
その結果、
拡散制限を示す部分が、背景に対して相対的に目立ちやすくなります。
Computed DWIは、この信号減衰の関係を利用した画像処理です。
■High b値(実撮影)とComputed DWIの違い
どちらも高b値の画像を得る方法ですが、特徴は異なります。
・High b値(実撮影)
実際に強い拡散強調を加えて撮影します。実測の信号が得られる一方、b値を高くするほどSNRが低下しやすくなります。
・Computed DWI
撮影済みの画像から高b値相当の画像を計算します。追加の高b値撮影時間は不要ですが、元画像の品質やADCの計算精度に影響されます。
Computed DWIでは、計算上の高b値を目的に応じて設定できるという利点があります。
一方で、計算によって新しい実測情報が増えるわけではありません。
そのため、
Computed DWIだけで判断するのではなく、元のDWIやADC map、T2強調画像などを組み合わせて評価することが重要です。
■【症例で見る】前立腺MRI ~4種類の画像を比較~
ここからは、実際の前立腺MRI画像を見てみましょう。
前立腺MRIでは、T2強調画像、DWI、ADC mapなどを組み合わせて病変を評価します。
今回は、T2強調画像、DWI b=1000(実測)、DWI b=2000(Computed)、ADC mapの4種類を並べて比較します。
① T2強調画像(左端)
黄色い矢印で示した部分に、T2強調画像で低信号となる領域を認めます。
② DWI b=1000(左から2番目)
同じ部分がDWIで高信号として描出されています。
③ DWI b=2000(Computed)(左から3番目)
背景信号が抑えられ、矢印で示した病変の高信号が相対的に目立ちやすくなっています。
④ ADC map(右端)
矢印部分は低信号を示しており、拡散制限を示唆する所見です。
このように、同じ病変でも撮影方法や画像処理によって見え方が変化します。
病変を見つけやすくするために、撮影条件や画像処理を工夫することもMRI検査の重要なポイントです。
■ADC mapも併せて確認することが重要
前立腺MRIでも、DWIの高信号だけで病変を判断するわけではありません。
ADC mapで信号が低下しているか、T2強調画像ではどのように見えるかなどを総合的に確認します。
先ほどの4枚比較画像の右端がADC mapです。
DWIで高信号、ADC mapで低信号を示す場合、真の拡散制限が考えられます。
ただし、拡散制限は悪性病変だけに特有の所見ではありません。
前立腺炎などでも類似した所見を示す場合があるため、画像の分布や形態、PSA値などの臨床情報も含めて評価します。
■まとめ
今回は、DWIのHigh b値とComputed DWIについて解説しました。
High b値では、拡散による信号減衰を強く反映させることで、背景信号を抑え、病変を相対的に目立たせることができます。
Computed DWIでは、実際に撮影した画像から計算によって高b値相当の画像を作成できます。
一方で、実撮影のHigh b値とComputed DWIには、それぞれ特徴と注意点があります。
大切なのは、画像の特徴を理解し、検査目的に応じて適切に使い分けることです。
MRIは、ただ撮影するだけではありません。
撮影条件や画像処理を工夫し、病変をより見つけやすく、診断しやすい画像を提供することも、私たち診療放射線技師の大切な役割です。
■新大阪画像のMoRI診断クリニックのMRI情報ブログ
~これからも「一味違う」画像を~
「ここで撮った画像は、なんだか見やすいね」
「想像していたよりも楽に検査できたよ」
そう言っていただけることが、非常に嬉しい瞬間です。
これからもスタッフ一同、自己研鑽を続け、患者さんや医師にとって価値ある画像を提供できるよう努力してまいります。
MRIの可能性はまだまだ広がっています。
